脚本:バーナード=ポメランス Bernard Pomerance
翻訳:山崎正和
演出:宮田慶子
上演:ホリプロ製作
@赤坂ACTシアター (2002年10月)
出演:
藤原竜也・今井朋彦・小島聖・小市慢太郎・腹筋善之介・湯澤幸一郎・大森博・湯浅実
![]()
19世紀末のロンドン。
重度の奇形を持つ男・ジョン=メリックは、見せ物小屋で「エレファント・マン」という名で見せ物にされていた。
彼の症状に医学的な興味を抱いたトリーヴズ医師は、彼を引き取って病院に住まわせる。
これまでとは全く異なる、人間らしい暮らしを手に入れるメリック。
彼は聖書を読んだり、詩を朗読するのが好きで、非常に高い知能と人間性を持つことが明らかになる。
とりわけ、模型作りには才能を発揮した。
新聞にも記事が載って有名になった彼のもとには、上層階級の人間たちが「友人」としてたくさん訪問する。
女優のケンドール夫人もそのひとり。
彼女に淡い恋心をいだくメリック、ケンドール夫人もメリックの心の美しさに惹かれていた。
しかし、トリーヴズ医師によってふたりの仲は裂かれてしまう。
そしてずっと作り続けていた模型が完成したとき、メリックは仰向けに眠って、死んでしまう。
彼は仰向けに寝ると、その奇形によって喉がふさがれてしまい窒息死してしまう。
ゆえにいつもうつ伏せに寝ていたのだ。
しかし、これがメリックの自殺であるのか、事故なのかは未だ分かっていない。
![]()
ジョン・メリックは何を思って生き、何を思って死んだのか。
重度の奇形を背負って生まれた彼は、人間扱いされなかった一方で、誰よりも人間らしい心を持ち合わせていました。
彼の人生そのものが、人間の生き方や、人間の運命にまつわる物語だったのではないでしょうか。
重度の奇形を背負って生まれたことは、もはや誰にも変えることのできない運命です。
ましてや、メリックがそのような奇形を抱える理由はひとつもありません。
これはメリックだけにとどまらず、人間は誰しも、なんの理由もなく大きな運命を背負わされています。
人間は運命と向き合い、そしてどのようにして人生を生きるべきかという問題と対峙しなければなりません。
そしてメリックの選んだ生き方は、誰よりも人間らしくあること。
どれほどひどい扱いを受けても、心だけは世界で一番美しくあることで、メリックは重すぎる運命を乗り越えようとしたのです。
しかし、ケンドール夫人への愛が周囲に認められなかったことでメリックは運命を乗り越えられなくなってしまいます。
メリックの心の美しさに惹かれたケンドール夫人は、彼に体を許そうとします。
ところがその現場をトリーヴズ医師に目撃されてしまうのです。
トリーヴズ医師はハッキリと明言こそしませんでしたが、メリックに次のような旨のことをいいます。
「そんなことは許されないことだ」と。
人間らしい生活を保障されたことで運命を乗り越える糸口をつかんだメリックでしたが、「最も人間らしい営み」を社会規範が許さなかったことで、運命に対して自分があまりにも無力であることを自覚してしまうのです。
運命に立ち向かえなかったメリックは、模型の完成とともに死を選びます。
模型は、メリックが後世に伝えようとした「願い」の象徴ではないかと思われます。
運命に対する自分の存在の小ささに気づいたメリックは、わざわざ模型を完成させてから自殺します。
模型を完成させることには意味があったのです。
ここで模型はおそらく「文化」の象徴ではないでしょうか。
人間扱いされなかったメリックが建築物の模型づくりに才を発揮するということは、はじめて彼が文化的な生活を手に入れたということになります。
つまり人権の獲得と同義なのだと思われます。
メリックは自らの命を絶つ代わりに、後世メリックと同じような人が現れたときにこの世界に悲しみなどないようにという願いを残したのです。
その「願い」を象徴しているのが、模型なのです。
すると、ここから人間と運命との間にある「生き方」という物語が見えてくるのではないでしょうか。
「大正四谷怪談」ではおどろおどろしいまでの官能を見せつけた藤原竜也ですが、ここでは全く対照的にピュアな人物を演じています。
宮田慶子は、特殊メイクを一切使わず、上半身裸にすることでメリックの奇形の重さだけでなく、心の清純さまでも伝えることに成功していました。
このような非常に的確な演出には驚嘆しました。
壮絶な戯曲を淡々と描くことで、岩に水がしみ入るかのごとく、戯曲がもつメッセージをゆっくりと観客に提示していました。
とりわけ今井朋彦と小島聖の手堅い演技は、戯曲の本質を確実に伝えていました。
しかし全体的にみると、「大人しすぎる」印象があったのは否めません。
市慢太郎・腹筋善之介・湯澤幸一郎という個性の強い俳優が脇を固めているので、もう少し「冒険」をしてみてもよかったのではないかと思いました。